Caught up


ときたまに見る夢はいつも音声がオフにされてて、目だけで見えるものが全てだ。自分らしき人物が宙に浮いている林檎(それも決まって少しずつ、その林檎は減ってゆく)に熱く語りかけて思いも知らない高揚感に溢れる。その夢を見た朝はかならずと言って良いほど夢精もしている。余程快楽的なことを語っているのかただその語っている内容が自分を興奮させるのだろう。そして決まって自分は、内容も何故宙に決まって林檎が浮いているのも検討がつかない。

今夜はまた竜崎とつまらない口論をして、鎖を外したいと軽く辺りの人間を巻き込んでわがままを言った。ついにあの月くんまで、と誰かが言ったのかは聴こえたが(それに決まった人数しかここを出入り出来ないし)それを軽く無視してその日の捜査は打ち上げた。困りますね、と背後で鎖が繋がったまま寝室までついてくる竜崎が妙に腹立だしかったが今は高ぶった頭を冷やすためにただ、眠りにつきたかった。急いで寝着に着替えて、ベッドに入り込んだ。竜崎はそれ以上、何も言ってこなかった。今日はこれ以上何を言っても考えを曲げないと判断したのだろう。勿論僕もそのつもりだったから別に都合はよかった。

意外と、早く眠りにつけた。怒り狂ったまま、寝つけるのは大変だと思っていたのに、自分はおやすみ三秒と言わんばかりの速さで夢の世界へ旅立った。今夜は、例の夢を見る予感がする。

良かったのか、悪かったのか、今夜は色々な意味でエクサイティングだった。林檎が浮いていて、それに語りかけている自分がいて。けれど今夜はもっとクロースアップで、違うアングルから見れて、なんだかとても得をした気分にもなった。けれど今まで「自分だと」思っていたのは違っていたらしい。姿形、はまったく同じなのだが目が。目だけがとてつもなく違っていて。神経質そうに細く、いつでも閉じることのない目は何故だか懐かしく感じた。そんな目は、気持ち悪いほどまっすぐで、自分には考え付けない何かを抱えているようにも見えた。
そして夢の中では、自分も登場している。こんなことは今までで全てが初めてで、次に何が起こるかも予想も出来ない。でも唯一の共通点は無声だったことで、相手が自分に何を話しかけているかも判らないまま、相手は表情を変えながら話しかけてきた。
一通り満足気に話しかけられた後、「彼」は自分の身体を細い目でジロジロと見られた。「聴こえない」、そう言ったら彼はもう一度満足気に笑い、自分の手を取った。驚いたけれど、何故だか受け止めなければならない気分になった。
突然、視界が一瞬揺らいで唇が塞がれた。冗談じゃない、夢の中なのに何故こんなにもリアルに苦しくて。息が出来ないまま彼を必死にどけさせようとした。
「なんのつもりだ!」
腹を殴って、よろめいた彼はそれでも笑顔で、自分を見つめ返した。
その目に見つめられて、自分は硬直したように動けなくなった。

僕は「彼」にされるがままになった。

こんなにも鮮明に自分の吐息が聴こえたことはないだろう、と言うくらい煩くて、激しいキスの合間に途切れ途切れの息を整えた。なんだろう、息苦しさは慣れているはずなのに「彼」はただ黙ったまま笑顔のままだ。乳首を丹念に指の腹で愛撫されて下半身が少しずつ感じてしまうのが分かった。女なら抵抗を見せて感じていないふりでも出来るのに、男はすぐ形が成して困ってしまう。
さわさわともう片方の手で布越しに触られる。変形してゆくそれが面白いのか彼はそこをぎゅっと握り締めた。まるで僕の様だ、不覚にもそう思ってしまった。自分は、竜崎との行為中に、こう言った意地悪を何回かする。
不意にぎゅっと性器を掴まれて呻いてしまった。きもちいい、素直にそう思えるだけ。動けないもどかしさが苛々をカンジさせたけど不思議に腰だけが無意識か相手の足に擦りはじめた。にやりと口角が上がってゆく彼は、焦らしもせずにズボンの中に手を入れてそれを扱き始めた。布と手の摩擦する音は卑猥に気分的にも興奮を高ぶらせた。こんな快感は、久し振りだった。

喘ぐ声を抑えきれず、断片的に漏れる声だけが脳内で響いて、なぜ自分に関するもの以外は無声で行われているかも気にすることも諦めた。彼は相変わらず見る限り口の動きで喋っているようにも見えるし、明らかに楽しんでる。僕自身を口に含んで、手を加えて袋も愛撫してくる。自分が何処が感じるかがまるで手に取るように分かっている彼は、一体誰なんだろう。二度目の吐精で、僕は意識を取り逃がした。ぼんやりとする視界で最後に認識できたのは彼の「声」だった。

『またな』。確かに、そう言った。

起きて見れば案の定夢精をしていて、夢に夢中だった自分が思わず声を出してしまったか心配していたけれど、竜崎は起きてなかった。熱を冷まそうとジャラジャラと鎖を動かす。引っ張られて起こしてしまった竜崎を巻き込んだことは、その後の話だったが。




また杏樹さんに貰いました。貰ってばかりでちょっと申し訳ないような……!
えろは苦手だとか云っておきながら普通にえろいですよ杏樹さん!
どうも有難うございますー!


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