即死メモリアル 僕は満足している。満足している、満足しているんだ。殺した男に跨って僕は腰を揺する。僕自身は性器に触れられてもいないのに、男の性器に貫かれて熱く短い息を吐く。欲情で目の前が見えなくなるくらい僕も男もひたすら身体を動かしている。僕はにやにや笑っている。男は死んでいるので笑いもしないでじっと僕を見ている。僕はひたすら体内を掻き回される感覚に背筋を震わせている。 あいつがようやく僕のもとに戻って来てから、僕らはひたすらお互いを貪っている。 「……」 男が何か云ったようだ。僕は黙れとだけ返事を返して腰を振る。下半身のお喋りが煩くて他に集中できないのだ。 「……、……」 また男が何か云ったようだ。今度は僕の名前も呼ばれた気がするが、そんなのには構っていられない。無視しているとやがて男は黙った。彼はただ僕を見ている。見ている。僕も男を見ている、果てなく喘ぎながら。死人に抱かれるのは気持ちがいい。だが最近のLのキスは甘くはないので少し違和感と不安が漂う。ケーキを昔ほど食べない理由を訊いたら散々説明されたが誤魔化そうとしているのは解かっている。僕のせいでケーキも好きなだけ食べられないような身体になったのだろうか。そう云えば以前よりずっと痩せたかも知れない。だが彼はどうせ死んでいるのでそんなことはどうだって構わないのだ。 セックスは気持ちいい。える、える、と呼びかけてみたらその屍骸は「Lはあなたでしょう」と返事をした。僕がLだって。そんな筈がない。確かに代わりに仕事をしていたけれど、やっぱりお前がLに決まっているじゃないか。「L、いつの間に白くなったんだ。髪が白いよ。地獄でよっぽど恐ろしいものを見てきたんだな」僕は笑う、笑う笑う笑うそして笑う。 「あなたがLを殺したんです」 そうだ僕が殺したに決まっている。だからお前は死んでいるんじゃないか。 「私はLではありません」 そんなはずがない。そんなこと、ある筈がないじゃないか。だってお前は僕の下で死んでいる。そんな虚言やめてくれ。お前のそんな偽りを信じてしまったら僕はおかしくなってしまう。僕をおかしくする気なのだろうか。おかしくなった僕を置いていくのか。お前もなのか、お前も諦めて僕を置いていくのか。 僕は男から身体を離して毛布に包まる。 Lを再び手に入れてから僕は心の平安を取り戻していた。そうだ、死んでしまったとは云えあいつが僕の許を離れるはずがない。Lが死んだということになって4年経ってから、あいつはようやく僕の前に姿を現した。ただ、帰ってきたLは以前と少し違っていた。その微かな違和感は今ではよく思い出せないが、以来Lは時折しばらく姿を消すことがあった。そして戻ってくる度に、何かが違う。 だが、何が違うのだろう。何が? Lは死んでいる。だからつまりあいつは最早ただの屍骸だ。あの男はもうLとして機能しないどころかこの世界のどこに居てもいけない。彼は生きていてはいけないのだ。あいつが生き返るのならば僕はあいつを殺さなければならないが、僕はそれが嬉しくて堪らない。幾らでも墓から這い出てくればいい、僕は何度だってあの男を殺してみせよう。この手であの男を殺す快感はきっとセックスよりも気持ちがよくて、僕は想像するだけで失神してしまいそうだ。 僕は男に身体をすり寄せて性行為をねだりながら熱く息を吐く。僕の手は男の身体を彷徨っている。 「あなたはキラです……」 そう呟く男の声の、何と心地よいこと。そうだ、暴いてみせろ。僕がキラである証拠を掴んで見せろ。それでこそLだ、そうだろう? 男が続けて云おうとした言葉を本能的に奪って、僕は舌なめずりする。 Lはいつもどこに消えるのだろう。そしてLはどうやって戻ってきているのだろう。 僕はそれを知っているのだろうか。知らないのだろうか。僕はそれを考えたりはしない。僕にとって大切なのはこの世界だ、この歪んで歪んでどろどろに腐敗した世界だ。 僕はこの世界の本能を滅ぼすだろう。なぜなら僕はこの世界を愛している。 「……なんにんころしたんですか」 首を締めたところから屍骸がぼろぼろと言葉を零すのに僕は眉を顰めて見せた。こういうのは好きだ。そうやって僕の腹を探ればいい。両手で掴んだ体温が脈打っている。 「僕がキラだったらもうどれだけ殺したか解からないくらいだろうね」 皮肉げに笑いながら手を離して男の首筋を指先で辿る。ここを噛み千切れば人間は死ぬ。 「違います」 屍骸がはっきりと言葉を発したので僕はびっくりしてしまう。 「何人、殺したんですか。どれだけあなたはLをすげ替えたんですか。私はあなたにとって何人目のLですか」 「なにを……云ってるんだ……」 僕は身体の下の屍骸を見つめた。屍骸は口をきいている。屍骸は体温を持っている。そしてその屍骸の髪は銀色だ。Lの髪は黒かった。いつの間にこうなった? 彼は本当にあの男なのか? 「あなたはキラです。そしてLを名乗っています。あなたは私をLと呼びますが私はそうではありません。本当のLは既にあなたに殺されています」 屍骸は静かに云った。 消えては再び僕の前に現れるL。いつも何かが違っていたL。全て別の人間だったと云うのか。僕は何度も何度もLではない男をLと呼び、矛盾を誤魔化しきれなくなると殺していたのか。何もかも幻覚だったのか。Lはもう僕が殺してしまって、屍骸すら戻ってこないのか。…… 僕はしばらく呆然としていたが、やがて納得して微笑んだ。 「面白い話だね、L。だけど僕がお前を見失うはずがないじゃないか……」 そうだ、僕があいつを見失うはずがない。Lはここに居るのだから。こうして、僕の傍に。いつまでもいつまでもいつまでも僕の許に居る。 ……しかし、ああ、何て酷い虚言だろう。 こんなそらごとに揺さぶられて、僕は発狂してしまいそうだ。狂うことができるのは狂っていない人間だけだとは知っているけれども。 色々矛盾はしていますが、久々に勢いのようなものだけで書きました。狂気のお話は読むのも書くのも好きです。 戻る |