僕は時折想像する。
 Lの手中に落ちた僕。

Parallelism

 そう、例えば僕がLの耳許に「僕がキラだ」と囁いてやったら。
 Lはまず感情的には納得するだろう。彼は僕がキラであって欲しいと望んでいたし、彼によれば彼の直感は絶えず夜神月はキラだとわめき続けていたそうだから。Lが僕こそがキラではないかという仮説を持ち出す度、彼の目が昏い興奮に満ち満ちていたことを僕は思い出す。それもそうだろう。彼は誰よりも堂々と正義を振りかざしておきながら、反面、誰よりも悪の味を知っているような人間だから。彼にとってのキラは、倒すべき敵であると同時にどんな犠牲を払ってでも手にしたいほど興味深い人間でもあるのだ。そこがLのジレンマで、だがそれは他のどんな事柄よりもLをLたらしめる。
 だがLは納得してしまおうとする自分を止めなければならない。なぜならそこには証拠というものが無いからだ。僕がLにデスノートの存在を教え、実物を示して見せ、そして触れさせない限り、Lはキラが人々を殺す手段を漠然と「何らかの能力だろう」と推測する他はない。つまりLは僕をキラであると証明することが出来ないし、同時に僕がキラではないと証明することもまた出来ない。そういった状況下において僕がキラであることを主張する発言に信憑性は無く、つまりLがどれほど僕がキラであることを確信していても、彼は結局のところどんなリアクションもとれはしないのだ。
 想像の中、僕はLにデスノートを手渡す。ほうらこれが証拠だよL、だけどこれからどうするんだい?全世界の人々一人ひとりにデスノートに触れさせて死神を見せ、そうやって説明するのか?そしてこのデスノートの存在を証明した時、それが権力によって取り上げられないと云い切れるのか?奪われたデスノートを最終的に手にしたその誰かは、きっとそれをただ焼き捨てたりは出来ないだろう、それは誰よりもお前が一番よく解っているはずだよ、L。僕は夢魔のようににんまりと笑って云うだろう。その時お前はこれがただの悪夢だと自分に信じ込ませずにいられるのか?
 あるいは、僕はLの本名を知った時にLに僕がキラであることを告げる。そうだ僕がキラだ、L。どうした、信じられないのか。あれだけ僕がキラであると、そうであればいいと望んでいたのに?いいだろう、証拠を見せてやるよ。流河旱樹、竜崎、L、そして……×××××。僕はデスノートをLに見せ、そして微笑みと共に一つの名前を指し示す、Lの名前を。僕が他の誰よりも殺したくて堪らなかったLの名前を。
 それは楽しい空想だ。
 僕は想像の中で、何度も何度もLを殺す。何度でも、飽きもせずに。そしてその度にLの表情は違う。驚き、怒り、恐怖、諦め、哀願、狂気、それに静謐。僕はこれ以上ないと云う程のおかしさを込めて笑い、そしてそれをLはなすすべもなく見守るしかないのだ。
 僕はまた、それらの架空の現実でLに殺される。Lはやはり様々な表情や台詞で僕を殺す。想像上のLは決して僕を処刑台に送ったりはしない。彼は絞殺だとか刺殺だとか、多種多様な方法で僕の息の根を止める。そうして僕はそんなLを笑いながら眺める。だって僕のために殺人を犯すLなんて面白くて堪らない。
 そう、それは楽しい空想だ。楽し過ぎて、僕はそれらを手放すことが出来ない。
 くすくすと笑っていると、項のあたりに熱い息がかかった。Lはこんなときでも冷え切った言葉を放り投げる。
「なにを笑っているんですか」
 折角の楽しい想像を中断されるのは本意ではない。問い掛けられて、それでも答えずに夢の続きを追っていると、Lが一層深く進入してきた。
「っは……あ」
 背筋を駆け上がる寒気にも似た感覚は僕には邪魔なものだ。いっそ神経を切り離してしまいたい。
 快感を煽るように、それなのにどこか事務的に耳を甘噛みされて、僕は思うように動かせない体をよじって逃げる。離れようとする体を引き寄せる腕。下肢を絡めとる切なく気の狂いそうな感覚は酷くなるばかりで、丁寧にかけられたシーツには幾ら爪を立てても皺も寄らない。
「なにが楽しいんですか」
 再度訊かれて、僕はLを振り返った。
「……お前を殺していた」
 云うと、男は酷い執着のような情動を瞳の底に沈めながら「君に私は殺せませんよ」と囁いた。
「君はもうその手を汚さずして私を殺すことは出来ません」
 死神は私です。
 喰いしばった歯の隙間から半ば唸り声と共に告げ、人を殺さない死神が僕の首筋に噛み付く。
「あ、あ、あ!」
 犯し殺そうとしてでもいるかのように執拗に貪られ、僕はとめどない嬌声を垂れ流した。

 僕は時折想像する。Lの手中に落ちた僕を。
 想像する。Lのその手の中で。




えーとこの話ではLがキラを捕獲した後デスノートを取り上げた設定になっています。解り辛いですね。だから現時点でのデスノート所持者はL。しかし月は所有権を破棄していないので記憶は別になくしてはいません。記憶を捨てて楽になろうとしたりはしない人ですので。
何かやっとL月らしくなってきました……と思ったらいきなりセックスでした。心臓に悪いです。
空想は楽しいですよね、というお話。


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