ぴぃらびゅらびゅ
sample





 僕の指は、冷たくなっていた。それを鮮明に覚えている。気温や体調のせいではない、緊張と不安とで、僕の胃は今にもひっくり返りそうなほどだった。
 何のラベルもついていないパッケージを手に取る。普通なら何か印刷されているはずの表面は、真っ白だ。
 ケースを開く。メディアの種類はDVDだ。銀色のディスクの表面には、日付だけが書かれている。少し、古いものだ。
 僕はそれを手に取り、デッキの前に膝をついた。ちょっとした凝り性でもある僕は、ステレオ機器もそれほど安くないもので揃えてある。
 ディスクを載せたトレイが収納されていくのを見送り、僕はそこにしゃがみ込んだまま、じっとテレビの画面を見上げた。ソファに腰掛けるだとか、そんな余裕は僕にはなかった。
 暗い部屋に、画面からの光が走る。空虚な空間で壁を青白く照らす光は、揺れ動きながら僕の顔に暗い影を落としている。
『あっ……』
 男性の声と共に、一瞬ぼやけていたピントが合う。画面の中で、金髪の青年が犬に伸し掛かられている。
『ん、んんっ、あ、待って、まっ……』
 少し、画像が荒い。
 彼らは小さな部屋に居るようだ。見える家具はソファだけ。
 犬の種類は僕にはわからない。男性にも匹敵するほどの大きさの黒い犬が、荒く呼吸しながら彼にじゃれついている。
 ダルメシアンかも知れない、とそう思った。
 黒い色だったので一瞬見分けがつかなかったが、犬は前脚に黒い靴下のようなものを履かされている。理由はわからない。
 困ったような声色で犬を宥めようとしている青年は衣類を身につけたままだ。何の変哲もない、白いTシャツに洗い晒しの空色のジーンズ。走り回る犬を追って、青年が振り返る。その顔に見覚えがあった。
 キースさんだ。彼が、映像に出演している。
 犬はソファに飛び乗ったり降りたりを繰り返し、とにかく彼の周りをぐるぐると回っている。興奮しているのだ。
 巨体に見合うだけの重量があるのだろう、鍛えているはずのキースさんが、あ、という声と共にやすやすと組み敷かれた。
 待ち切れないとでも言うように、犬が鼻先を彼の股間に摺り寄せた。尻の間に鼻先を突っ込むようにされて、キースさんが羞恥に頬を赤らめた。
『す、少し……待ってくれないか』
 恥ずかしそうに言い、彼はソファの前に跪くと、カメラに尻を向ける形でジーンズを下ろし始めた。途端に例の犬が息も荒く彼の全身に鼻先を押し付け始める。
『あうっ、だめだ、舐め……あっ! ふあっ!』
 尻の間に犬が鼻先を突っ込む。薄いけれども案外幅の広い舌先でべろべろと舐めずられ、キースさんが思わずといった風にソファに突っ伏した。ぐ、と指先が布張りのソファに食い込んでいる。
『ふああっ、はっ……ま、待ちなさい!』
 犬が舐める度に背中を波打たせ、彼はソファに俯せたまま、腕を伸ばして犬を引き剥がそうとする。犬は一旦従うものの、すぐにまた鼻先を押し当てようとしている。
 彼は何度目かに犬を押し退けると、すかさず自ら脚の間に手を潜り込ませた。
『待ってくれ、あ、今、出すから……はっ、はあっ、あっ! んっ、くうぅ……っ!』
 腰をうねらせ、キースさんが苦しげに引きずり出したのは、ペニスを模したディルドだった。ずるずると抜かれたそれが、手を離れてごとりと床に落ちる。
 カメラが寄って、塞ぐ物を失ってひくつくアナルを映し出す。どれだけの長時間ディルドを入れていたのだろうか。そこはローションでぬめり、緩く口を開いている。
 彼を犯していたものを失ってぶるりと腰を震わせたキースさんが息をつく間もなく、素早く背後に回った犬が巨体で彼の動きを封じた。
 腹の下から覗くペニスはすっかり鞘から飛び出しており、何度も腰を押し付けて挿入を焦っている。あまりの勢いに驚いている彼の腰を、犬のペニスがひっきりなしに突く。
 挿入できる位置を探して犬がぐいっと彼に伸し掛かった。
『ん、んんっ、ああああっ! あーっ!』
 ずるん、とペニスが彼のアナルに押し込まれた。全身を硬直させたキースさんが喘ぐ。犬のように舌を出して上げた悲鳴はすぐに途切れた。


(本編に続く)

(08.26.12発行)


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