Jingle bells, Shotgun shells,
sample



表紙寄稿: ハチロさん


Jingle bells, shotgun shells, Santa Clause is dead.
Rudolph took a .410 and shot him in the head!

 クリスマスなんて大嫌いだった。家族で集まってお食事会。一年間イイ子にしてればサンタが来る。悪い子リストに載ったら来年までお預けだ。ガキどもは靴下を吊るし、クッキーとミルクを用意してベッドに潜り込む。ティーンどもは浮かれて、好きなあの子とヤドリギの下でキスときた。
 馬鹿馬鹿しい。
 サンタクロースなんて実際にはどの家にも不法侵入しちゃいないし、そもそも今のシュテルンビルトに煙突のある家なんてない。子供達は悪い大人にサンタなんていないと教えられて泣き叫ぶ。俺はあれが煩くて嫌いだ。いるもんいるもんいるもん! そう泣き喚く子供に俺はいつも言ってやってる。じゃあ捕まえてみろよ、サンタさんをさァ。お前にそれができるか? できないだろ。ほらな!
 俺の甥っ子なんかはまさにそのサンタさんを信じてるガキだった。姉夫婦にあたたかーく見守られて、毎年サンタさんにプレゼントをお祈りしてる。そんなもんは居ないと何度教えてもあいつは聞きもしなかった。だってサンタさんは去年もプレゼントをくれたんだよ、あいつがそう言ってニコニコするもんだから、サンタから貰ったっていう玩具の客船を運河に沈没させてやったのはいい思い出だ。ポカーンとした間抜け面がどんどん歪んでいって、シクシク泣くのを見たらスッキリしたね。
 そんな俺がサンタならぬスカイハイを捕まえようと思ったのは、クリスマスが近づいて街じゅうが浮かれ、馬鹿みたいにホリデイソングを流しまくるようになった頃だった。クリスマスも嫌いだがホリデイソングはもっと嫌いだ。何しろクリスマスなら一日で済むが、ホリデイソングは感謝祭が終わった途端にかかり始めてクリスマス当日いっぱいまでわめき続けやがる。糞ったれのジングルベル。サンタの頭をショットガンで蜂の巣にしてやりたいね。
 そんな訳で、毎年毎年特大のクソを食らわされたような気分になるクリスマスだったが、今年は違う。ヒーローTVで大活躍のあいつ、スカイハイが今年はサンタの代わりにシュテルンビルトを回って、スカイハイフィギュアを配るのだという。
 スカイハイってのはちょっと前にデビューしたばかりの新参ヒーローで、空を飛ぶしか能のない奴だが、これが案外活躍していた。俺もちょっと気に入って珍しくマンスリーヒーローなんかを買ってきたりもしていた。コミックみたいに空を飛ぶヒーローが居たら面白いだろうとは思っていたし、今までのヒーローにまともに空を飛べるやつはいなかったからだ。別にヒーローにそれほど興味があるわけじゃない。スカイハイは何となく俺の中で特別だったんだよ。
 だけどあいつは今年、キングオブヒーローに選ばれた。初めてキングオブヒーローになった記念に、スカイハイのフィギュアが発売されたんだが、それがあんまりにも売れたので、今や品薄の影響もあってすっかりプレミアがついていた。ネットオークションでは何倍もの値段がついてるし、ヒーローカードだって完売だ。俺はというと、それですっかり白けちまった。おいおい、デビューしたてのペーペーがこんなにあっさりKOHだぜ。なんか天然っぽいのが面白いと思っていたけど、今になって思うとわざとらしいんだよな。キャラ作りってやつじゃねえのか。あの『ありがとう、そして、ありがとう!』って決まり文句を見ると、完璧ぶってんじゃねえよって反吐が出るね。最初の頃に、ちょっと気に入ったかも、なーんて思ったのが間違いだった。今や俺はスカイハイが嫌いで嫌いでたまらなかった。買い溜めてたマンスリーヒーローはゴミ箱に直行させた。あいつのすかしたポーズも、ヒラヒラ飛び回る姿も、カマトトぶった物言いも気に食わねえ。お空を呑気に飛んでやがるあいつをショットガンで撃ち落として踏み付けてやりたい。そうは思うが、悲しいかな、俺はNEXT能力すら持たないただの一般市民だった。いつまでも姉貴のケツにしがみついてる、厄介者のルドルフ。赤っ鼻のトナカイですらないこんな俺に何ができるって? クソして寝るぐらいだよ。畜生。
 だから、そんな俺にスカイハイをどうこうできそうなチャンスが巡ってきた時、俺は自分自身ですら信じられなかった。何の気もなく郵便受けを覗き込んだ俺は、ポセイドンラインからの、親展と書かれた厚みのある封筒を見つけた。裏にはスカイハイのサインが入っていた。ありえないだろ。おい、ありえないだろ。思わず口に出して自分に言い聞かせたね。だがそいつは俺の目の前で煙になって消えたりしなかった。とうとう俺のところに降ってきたんだよ、チャンスってやつが。
 それはクリスマスが目前に迫って、ホリデイソングが一際煩くがなりたてていた日のことだった。その日、たまたま姉夫婦は甥っ子の通うエレメンタリスクールに行くってんで朝っぱらから出掛けていた。昼もだいぶ回った頃に起き出してきた俺は、テーブルに残されてたピーナッツバターサンドをもぐもぐやりながらぶらっと外に出てきてみた。2ブロックもいかないうちに冬の風が思った以上に寒かったからさっさと引き返した、そこで俺は見つけたのだ。スカイハイからの手紙ってやつを。
 黙って周囲を見渡す。俺を見てるやつは誰もいなかった。
 俺はその手紙を尻ポケットにねじ込み、ジングルベルを小さく口ずさみながら自分の部屋にとって返した。ジングルベル、ショットガンシェル、サンタクロースは死んだ。
 部屋のカーテンは引きっぱなしで、暗いし脱ぎ捨てた服やら丸めたティッシュやなんかでぐちゃぐちゃしてる。俺はこの部屋も好きじゃなかったが、そんなことは気にならなかった。皺の寄った封筒を破くと、中からはグリーティングカードみたいなものが出てきた。スカイハイが書いたと思われる文字は、あいつ同様お綺麗な印象だった。丁寧で無駄に気合いが入ったカードの中にはこう書かれていた。ハッピーホリデイズ! お手紙をありがとう、クリスマスには私が君のもとへプレゼントを届けに行くよ。君に会えるのが楽しみ、そして楽しみだ! 親愛なる、スカイハイより。
スカイハイが、この家に来る。
 俺は何度も何度もその手紙を読み返した。信じられるか。シュテルンビルトのキングオブヒーロー様が、この家に、あの阿呆面晒したガキに会いにくるんだ。クリスマスイブに。9インチかそこらのフィギュアを持って。
 手書きのカードと一緒に、印刷された紙が一枚入っていた。俺は楽しくなってそいつを声に出して読み上げた。ご家族へのお願ァい! スカイハイは24日の19時から23時頃に伺います。子供部屋の窓から入らせていただきたいので、訪問をご希望される場合はポセイドンラインのクリスマス企画室まで、ご希望の時間帯を明記の上ご連絡をお願いしまァーす。……ああ勿論連絡するさ、すぐにな。
 早速記載されていたメールアドレスに返信した俺は、カードと紙と封筒を一纏めにして細かく引き裂いた。文字が判別できなくなるまで、丁寧に。そいつをトイレに流しながら、俺はニヤニヤ笑った。自然と鼻歌がこぼれる。最高の気分だった。
 ジングルベル、ショットガンシェル、サンタクロースは死んだ。ルドルフが410で奴の頭を吹っ飛ばした!
 ……俺がそのルドルフだよ、スカイハイ。

(本編に続く)

(12.30.11発行)


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