好きとは一度も言ってな
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 いったいどのタイミングで気付いていればよかったのだろう。虎徹が「なあ、ちょっと変わったことをしないか」と話を持ちかけてきた時だろうか。あるいは、「今夜はこれを使ってみろよ」という言葉と共に差し出されたものを受け取った時だろうか。それとも、そもそも彼を自宅に彼を招き入れた時なのか。それがキースにはどうしても解らなかったが、例え適切なタイミングを把握していたとしても、彼には虎徹を拒むことなどできはしなかっただろう。
 だからこの状況も、仕方がないといえば仕方のないことなのだった。
「はあっ……はあっ……」
 キースは息を荒げてフローリングの床に這い蹲っていた。見せつけるように突き出された尻には白っぽいものを深々とくわえこんでいる。それを自分で抜き差しするたびにぐちゃぐちゃと湿った音が室内に響きわたっている。
「い、いやだ……もう……いやだ……あああっ……!」
 涙混じりに喘ぎながら、キースの手は必死に自分自身の体内をそれで掻き回し続けている。ひとり悶えるキースを、虎徹がじっと見つめている。
 こんなことになってしまったのには、経緯があった。
 この夜、虎徹は少し変わった手土産を持ってキースの自宅を訪れていた。虎徹に差し出されたそれは一見ディルドのようにも見えたが、食品を加工したものとしか思えなかったためにキースは困惑した。どうにも手作り感の漂う荒っぽいつくりで、触ってみると表面がぬめぬめしている。
 ヤマイモだ、と虎徹は言っていたが、それがどういうものなのかは解らず、キースはちょっと困った顔で彼を見つめた。「おまえがこれでイくとこが見たいんだよ」と言われて、彼はしばらく逡巡した後に決意を固めた。虎徹が望むならその通りにしたい。
 これまでもキースは何度もディルドやローターによる自慰を彼の前で披露してきた。虎徹は彼のそういう姿を見るのが好きだと言っていたし、その通りにした後は大抵キースの希望に沿って優しく抱いてくれる。虎徹が毎回キースを抱くとは限らなかったが、少なくともそういう夜はキスをして一緒に眠ってくれる。恋人同士でもない相手と肉体的な関係を結ぶことについて抵抗がないわけではなかったが、キース自身は純粋な彼への好意のために異議を唱えることができずにいた。それどころか、半ば無自覚のうちに虎徹の要望があればそれに応える癖がついてしまっている。
 だが、キースが次々と彼の要望に応え続けているためなのか、虎徹からの要望が回数を重ねるごとに少しずつハードルを上げていくのが唯一の懸念だった。彼はキースの限界を試してでもいるのだろうか。

(本編に続く)

(12.30.11発行)


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